英語能力を確実に向上させる学習法は「英語多読法」
「英語学習がなかなか継続できない」そんな悩みを抱えている方へ、継続できて英語能力を確実に向上させることができる<英語多読法>のいろいろ(やり方・メリット・本の選び方・やる前に準備するもの)をご紹介します。
英語の勉強が続かない方へ
国際語である英語ができれば収入が劇的に向上するという国は発展途上国をはじめとして少なくありません。そして、最近では日本においても英語が出来ても収入アップにつながらないという、幸せな時代に終わりが近づいていると感じている方も多いでしょう。
そんな方が「英語の勉強を始めよう!」となるのは自然なことです。そして少なくない数の方が途中で挫折を経験していることでしょう。
普段の生活で必要ないことを継続するというのは難しいものです。意思が弱いから継続できないのではありません。人間は生来コンフォートゾーンから離れることが出来ないようになっているのです。
コンフォートゾーンとは、「自分の居心地がいい」と感じられる場所のことです。今はできない英語に接することで、簡単にコンフォートゾーンから離れます。「わからない」「できない」「先に進めない」「上達が感じられない」「苦労の意味あるのだろうか」こんな事に接するからです。
語学を習得するにはどうしてもある程度の時間がかかります。日本人がある程度の英語を習得するには、最低 3000 時間が必要だと言われています。どうしても継続することが必要となるのです。
「どうして継続できないのだろうか?」
「コンフォートゾーンから離れるから」
故に、英語学習を継続するには、出来るだけコンフォートゾーンから離れないようにすることが重要です。完全に離れることを阻止できないので、出来るだけ離れないようにするような工夫が大事です。
工夫の一つが適切な学習法を選択することです。そして学習法の候補の一つが「英語多読法」になります。働きながら学習している社会人に特にぴったりです。電車通勤との相性が良いからです。
英語多読法とは
英語多読法 (ER: Extensive Reading) とは、大量の本の読書を通して英語学習をする方法です。語彙の習得を促進するだけでなく、読書を楽しむことを通じて英語学習のモチベーションを高めると考えられています。
言語学の権威であるスティーヴン・クラッシェン教授は「自発的自由読書 (Free Voluntary Reading) は最も強力な言語習得方法である」とまで主張しています。
英語多読法では、自発的自由読書 (Free Voluntary Reading) が最も大切です。自発的自由読書とは、読者の完全な理解レベルをわずかにわずかに上回る、興味深い本を、自発的に多く読書することです。
最終的には英文を日本語に訳さず英語のままで理解できるようになります。
英語多読法の三原則
多読を長く続けるためのコツは「楽しくスラスラ読む」ことです。多読を継続する限り必ず英語力は伸びていきます。なので下記の三原則を基本として自分なりに継続可能な英語多読法を見つけてください。
- 辞書は引かない(引かなくてもわかる本を読む)
- わからないところは飛ばす(わかっているところをつなげて読む)
- つまらなくなったら止める( 1 と 2 の原則で楽しく読めない本は読まない)
辞書は引かない
「楽しくスラスラ読む」のに「辞書の利用は天敵」です。多くの方が「英語学習とは辞書を引きながら読解すること」を実践し破れてきたことでしょう。翻訳サイトの精度が向上し昔ほど苦労しなくなりましたが、辞書の利用的なものは原則しない方が良いでしょう。
辞書を引かず楽しく読書するには、本の選び方が重要です。「文章を自由に読み、理解することためには文章の 98%が知っている単語でないといけない」と言われています。読者の完全な理解レベルをわずかにわずかに上回る (分からない単語が 2%以下: 2 ページに 1 個以下) 中で、面白いと思う本を選びましょう。
わからないところは飛ばす
本を読んでいる時にわからない単語や言い回しが出てきたら、かまわず飛ばしましょう。最初はそれがストレスになるかもしれませんが、そうした方が継続できますし英語力が伸びます。
よくできた本はたとえ読み飛ばしても 1 冊読み終わることには、飛ばした箇所を何となく分かるようになっています。この分からなかった箇所を他の部分から補完するという作業が英語力の向上に欠かせないほど重要なのです。補完作業をする時に無意識ですが、頭の中はネイティブと同じように動きます。英語の情報だけを頼りに分からなかった情報を補完することはいわゆる「英語脳」の状態になっているのです。
なので分からなかったところはどんどん気にせず飛ばして読んでください。ただし、1 冊読み終えても全然補完できない場合は、本のレベルが合っていないので要注意です。本のレベルを変更しましょう。
※電子書籍で読んでいる場合、分からなかった単語や英文をハイライトしておくのはありだと思います。ただしそれをチェックするのは、1 冊全部読み終わった後がいいでしょう。
つまらなくなったら止める
これも継続するために必要なことです。ちょっともったいないですが英語をマスターするためです。つまらなかったらその本を読むのをやめて次の本に行きましょう。
本のジャンルによって楽しめたり楽しめなかったりするので、途中でやめてしまった本もちゃんと記録しておきましょう。あと、やめてもすぐに次の本に行けるように、手元には何冊か買っておいた方がいいですね。
初学者におすすめの本の選び方
Graded Readers (GR) から始めることをおすすめします。
Graded Readers (GR) とは、使用する主要な単語を制限し、全体の量や文法事項を調整することで、英語学習者が辞書無しで読書を楽しめるように工夫された多読用の英語教材のことです。
「読者の完全な理解レベルをわずかにわずかに上回る本」を見つける時の参考とするものは下記になります。
- Level(レベル)・・・読書難易度
- Wordcount(単語数)・・・1冊あたりの総単語数
- Headwords(制限単語数)・・・基本単語数
- Yomiyasusa Levels [YL](読みやすさレベル)・・・SSS 英語学習法研究会が生み出した日本人の英語学習者にとっての読みやすさを数値で表したレベル
Graded Readers (GR) の主要出版社 7 社
- Penguin Readers(ペンギンリーダーズ)
- Oxford Bookworms Library(オックスフォードブックワームス)
- Cambridge English Readers(ケンブリッジ・イングリッシュリーダーズ)
- Macmillan Readers(マクミラン・リーダーズ )
- Scholastic Readers(スカラスティックリーダーズ)
- Foundations Reading Library(ファンデイション リーディング ライブラリ)
- IBC Publishing Ladder series(IBC パブリッシング ラダーシリーズ)
読書難易度と1冊あたりの総単語数
読書難易度と1冊あたりの総単語数は各社おおむね比例してます。Penguin Readers の例を上げてみましょう。
- Easy Starts ・・・200 単語
- レベル 1・・・・・300 単語
- レベル 2・・・・・600 単語
- レベル 3・・・・・1200 単語
- レベル 4・・・・・1700 単語
- レベル 5・・・・・2300 単語
- レベル 6・・・・・3000 単語
Yomiyasusa Levels [YL](読みやすさレベル)7 段階
- レベル 0 YL 0.0-0.9・・・英語の知識がなくても読める
- レベル 1 YL 1.0-1.9・・・80 時間以上の英語学習で学習者が読むことができる
- レベル 2 YL 2.0-2.9
- レベル 3 YL 3.0-3.9・・・1冊あたりの総単語数が 1 万語までの児童書
- レベル 4 YL 4.0-4.9
- レベル 5 YL 5.0-5.9
- レベル 6 YL 6.0-6.9
- レベル 7 YL 7.0-7.9・・・大人向けペーパーバック
- レベル 8 YL 8.0-8.9・・・難しめのペーパーバック ※ハリー・ポッターと賢者の石の、YL は 8.7、総単語数は 77,000 語 です。
成長が実感できるようになる読書量
成長が感じられるまでの読書量には個人差がありますが、一般的には下記のように言われています。
- 総単語数が 30 万語で「英語に慣れてきて成長が少し実感できるようになった」
- 総単語数が 100 万語で「確実に成長しているのを感じられるようになった」
英語多読のコツは、「楽しくスラスラ読む」ことです。楽しむには易しい本を読むことです。最初がなかなか成長を実感できなくてやきもきするかもしれませんが、結果ではなく経過を楽しむことで乗り切ってください。下記の表は初学者の方の 100 万語に到達するまでのスピード参考です。かなりゆっくり進んでいることに気がつくでしょう。
年単位で見た時に、このスピードでの読み進めが遠回りのようで実は一番効率的なのです。
難易度 | 基本単語数 | 総単語数(/冊) | 読む冊数 | 読書語数 | 累計読書語数 |
---|---|---|---|---|---|
0 | 200-250 | 1000 | 30 | 30,000 | 30,000 |
1 | 300-400 | 3000 | 30 | 90,000 | 120,000 |
2 | 600-800 | 7000 | 50 | 350,000 | 470,000 |
3 | 1000-1300 | 11000 | 50 | 550,000 | 1,020,000 |
英語多読法のメリット
- 英語の文章を読むことに慣れる&抵抗がなくなる
- 単語の意味やニュアンスが感覚で分かるようになる
- 暗記しようと頑張っているわけではないのに、自然に理解できる単語が増えてくる
- 会話・語彙・文法・読解の全ての力が上達する
- 覚えた単語を忘れない
- 英語を読むスピードがアップする(それにつれて読書量もアップする)
- 前置詞の感覚がネイティブ並みに理解できる
- 基本的な副詞の感覚がネイティブ並みに理解できる
- ネイティブの思考法が理解できるようになった
- 英語圏の文化を理解できるようになった
- 「読む」「書く」「話す」「聞く」の4つの分野が全部伸びた
多読法を始める前に準備すること
英語の多読法の効果を最大限にするために準備しておいたほうが良いことは下記になります。
- 英語の基本的な文法を習得する
- 英語の基本的な発音を習得する
英語の基本的な文法を習得する
日本語で書かれた英語の文法書を読んで、きちんと英文法を理解することが大切です。最初にどれだけきちんと英文法を理解するかが、多読法による上達に大きく関わって来ます。
英語の基本的な発音を習得する
できるだけ英語の『音』にも慣れておくと、多読法の効果が向上します。英語の発音を習得した後ですと、本の黙読時に自分の頭の中に正確な英語発音を響かせることができるようになります。人間は自分が発音できる音しか認識できないものです。是非発音を身に着けて、リーディングしながら、ヒアリングも同時にできるようにしておきましょう。
多読をしながら英単語を覚えるのはやめた方がいい
「読者の完全な理解レベルをわずかにわずかに上回る本」を「楽しくスラスラ読む」ことが英語多読法のコツです。
完全な理解レベルをわずかにわずかに上回る = 分からない単語が全体の 2%以下
これを守っていると「単語だけ先に覚えれば、もっと多読の本のレベルを上げれるのでは?」という誘惑にかられることがあります。ただそれがやめておいた方が良いでしょう。英単語だけ覚えるという学習法は、もっとも英語学習のモチベーションを下げるものだからです。
単語帳で "reach" を覚えようとすると「達する」という代表的な和訳だ覚える場合が多いです。ところが "reach" は辞書に下記のように記述されています。
【他動詞】
- 〔目的地に〕達する、至る、着く、到着する
- 〔目標物に〕手が届く
- 〔郵便物などが~に〕届く、配達される
- ~に連絡する
- ~に手を差し出す、差し伸べる、手を伸ばす
- 手を伸ばして(人)に物を渡す
- 影響が及ぶ、(人)の心を動かす
- ~(の範囲)に達する、~歳になる
【自動詞】
- 〔触れようとして〕伸びる、向かう
- 〔影響などが〕及ぶ、〔衝撃などが〕伝わる
- 〔何かを得ようと〕(必死に)努力する、骨を折る
- 《海事》横風で走る
【名詞】
- 〔手などを〕伸ばすこと、伸びをすること
- 届く距離[範囲]
- 理解できる範囲、権力の及ぶ領域
- 広がり、広い場所
- 連結棒 ◆ 後輪と前輪の車軸を結ぶ棒。 《海事》開き、一間切り ◆ 帆が横から風を受けてジグザグに進む(間切る)ときの、間切りと間切りの間の航程
- 〔川や運河の〕水門間の広がり、見渡せる範囲
- 〈米〉岬
- 〔メディアの〕リーチ、到達度[率]
このような記事はよく見かけます。下記のようなロジックですね。
- 一般的な英文に含まれる単語は 2800 語だけで 92%を占める
- だから 2800 語の単語だけ覚えれば 92%の一般的な英文が読めるようになる
ベーシック英語 (2000 語)のように 100 年ほどから、頻出する英単語を優先的に覚えたほうが良いというアプローチはありました。それでは本当に「2800 語の単語だけ覚えれば 92%の一般的な英文が読めるようになる」のでしょうか?
答えは「NO」です。ひとつ例を出しましょう。
"get in touch" このフレーズの意味がわかるでしょうか?
「連絡する」という意味です。
"get" も "in" も "touch" もベーシック英語にリストされている基本的な英単語です。ですが、これらの単語をばらばらに覚えるていては、英文を読めるようにはなれないのです。英単語は組み合わせによって、様々な意味になるからです。
特に前置詞や基本的な副詞はその最たるものです。これらの単語は別の単語 (名詞・動詞・副詞など) と組み合わさることにより様々な意味になります。ひとつ動詞 + 副詞 の組み合わせの句動詞の例を上げましょう。
- look・・・見る
- look after・・・世話をする
- look around・・・見回す
- look aside・・・目を離す、顔を背ける
- look at・・・~を見る
- look back・・・振り返る
- look down・・・見下ろす、見下す
- look for・・・探す、期待する
- look in・・・訪れる、覗く
- look into・・・中を覗き込む、調べる
- look like・・・に似ている,のように見える
- look on/upon ~ as ...・・・~を…とみなす
- look out・・・外を見る、気をつける
- look over・・・ざっと目を通す、見渡す、大目に見る
- look through・・・目を通す、調べる、見抜く
- look to・・・目を向ける、目を配る、頼みにする
- look up・・・見上げる、調べる、好転する、訪問する
ひとつの単語は使われる場所と文脈によって様々な意味合いを持ちます。英単語と和訳を 1 対 1 で覚えると、実際に使えない場合が多いだけにとどまらず、使っていない単語は片っ端型忘れていきます。脳の構造上忘れることはしょうがないことであり、この忘れるという体験がものすごく英語学習のモチベーションを下げます。
一方で、1 冊の本の中で状況・文脈・関係性を含んだ場面で英語が使われます。理解できる範囲の単語が様々な使われているのに繰り返して直面することで、本当の意味で英語を身につけることができるのです。そのようにして刷り込むようにして身につけた英語は長期記憶に定着し忘れがたいものになります。
このように英語多読法は、確実に英語能力を向上させることができます。初めて英語学習にチャレンジする方も、以前に挫折して再チャレンジする方も「英語多読法」を試してみてはいかがでしょう。
英語多読を始める際、具体的な本の探し方を知りたい方はこちらをご覧ください。